皆様新年明けましておめでとうございます。
昨年は行動規制の緩和やマスク着用の必要性が下がるなど、新型コロナウイルスの脅威から解放されつつも、インフルエンザや溶連菌など、従来からある感染症が猛威を振るった年でもありました。そこで、今月の記事も先月に引き続き、ウイルスについて紹介していきます。
12月の記事ではウイルスが何故感染するのか、ウイルスから身を守るにはどうしたらよいかをお伝えしました。今回はそんなウイルスがヒトも含めた様々な生物との関わりや、ウイルス自身の生存戦略について見ていきましょう。
ウイルスの増殖と感染
前回の記事でウイルスは自力で増殖できないとお伝えしました。ではどのように増殖するのかというと、生物の細胞に寄生、すなわち感染をするのです。細胞に感染したウイルスは宿主細胞の器官を利用して自身の遺伝子(DNAかRNA)を複製し、遺伝子を保護するタンパク質の殻をまとって細胞の外へ出ていきます。ウイルスに感染した細胞は本来自分自身のために行っていた遺伝子の複製やタンパク質の合成機構をウイルスに乗っ取られてしまい、いわば「ウイルス工場」と化します。最終的に感染細胞は壊れてしまい、増殖したウイルスを外にばらまくことになります。ウイルス感染した細胞が壊されると、炎症反応や感染器官の機能不全が起こります。これがウイルス感染症の正体なのです。
新型コロナウイルスの増殖機構 出展:花王プロフェッショナル・サービス
https://pro.kao.com/jp/kansen-taisaku/knowledge/04/
ウイルスとの共存
ここまでウイルス感染症の恐ろしい部分を紹介してきましたが、実は感染症を起こすウイルスは全体のごく一部に過ぎないのです。大部分のウイルスは感染症を起こすことなく、宿主と上手く共存しています。そのようなウイルスは細胞内での増殖スピードをあえて遅くしていたり、宿主細胞に影響を与えないように増殖することで細胞を壊さずに増えていくのです。厳密には、本来ウイルスはそれぞれ感染できる生物が決まっており、その生物に対してはできるだけ害を与えないようにしているため、症状が出ない場合が多いです。
それに対して、基本的に感染症を起こすウイルスは本来違う生物と共存していたウイルスです。それらが何らかの事情で別の生物に感染してしまうと、新しい宿主細胞に害を与えないよう調整ができず、過剰に増殖してしまうことで症状が現れます。つまり、ウイルスが新しい環境に慣れておらず、やりすぎてしまうのです。近年流行っているウイルス感染症も他の動物由来のウイルスが原因であるものも多く、新型コロナウイルスはコウモリ、新型インフルエンザはニワトリやブタから移ったとされています。
出展:首相官邸 https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/tori_influ.html
ウイルスにとって、新しい宿主を得ることは増殖の場を増やすチャンスになるのですが、前述の通り、やりすぎてしまって宿主を死なせてしまうとそれ以上増殖できなくなってしまいます。そのため、長期的にみるとウイルスは徐々に弱毒化していき、最終的には害を及ぼさずに宿主と共存できるようになっていきます。より正確に表現すると、毒性の強いウイルスは宿主が死んでしまうことで共倒れになりますが、弱毒化すれば宿主と共に生き残るため、その方向に進化しているように見えるのです。