これまでウイルスについて2回記事を投稿しましたが、今回はウイルスが様々な方法で利用されていることをお伝えしていきます。
ウイルスと生物の進化
ウイルスは生物の進化にも深く関わっているとされています。これまでお伝えしてきた通り、ウイルスは細胞に侵入してその細胞の力を借りて増殖(遺伝子の複製)を行っていますが、この際にウイルスの遺伝子が宿主細胞の遺伝子に紛れ込んだり、逆に宿主細胞の遺伝子がウイルスに取り込まれることがあります。この現象は遺伝子の水平伝播といわれており、他には細菌同士で遺伝子を交換し合う場合もありますが、ここでは割愛します。遺伝子の水平伝播はいわば天然の遺伝子組み換えであり、これによって新たな遺伝子を得たことで、進化を促された生物が数多くいるといわれています。私たちに身近な例を挙げると、哺乳類の胎盤における合胞体性栄養膜の形成にはウイルス由来の遺伝子が関わっているとされています。この膜は母体と胎児を隔てており、酸素や栄養素はこの膜を通過できますが、免疫細胞などは通過できないため、母体にとっては異物である胎児への免疫細胞による攻撃を防ぐことで、妊娠の維持に役立っています。この例は哺乳類がウイルスを利用して子孫を残しやすくしたことで、進化に役立てた好例といえます。他にも多くの興味深い例がありますが、まだまだ研究が進んでいない分野なので、これからも新たな発見がされていくことでしょう。
ウイルスと遺伝子工学
何かと話題になりやすい遺伝子組み換え技術にも、ウイルスを活用する技術が研究されています。これは前項でお伝えした遺伝子の水平伝播の性質を利用したもので、医療や農業などの分野でも研究が進んでいます。
例えば、今後の再生医療の中核を担うであろうiPS細胞を初めて作成した際にもウイルスが用いられました。また、近年では難病治療に必要な遺伝子を導入するためにウイルス自体を注射薬として投与する、遺伝子治療が行われています。この治療ではウイルスが基本的に特定の細胞にしか感染しない特徴を利用しており、病変が起こっている細胞にのみ感染させることで全身性の副作用などを軽減しています。日本でも遺伝子治療薬として、ゾルゲンスマという薬が承認されています。この薬は遺伝性の疾患である脊髄性筋萎縮症患者の欠損した遺伝子を補う薬です。欧米では他にも様々な種類の遺伝子治療薬が使われているので、今後日本にも広がっていくことを期待しています。