今回のテーマはすでに広く認知されているお薬手帳についての豆知識です。少しでもご参考になれば幸いです。


お薬手帳は、主に他の医療機関でもらっている薬との相互作用を確認したり、救急車で運ばれるような緊急時に本人が話せなくても何の薬を飲んでいるのかを伝えるツールとして利用されていました。特に出血が止まらなくなる薬を飲んでいる患者さんの怪我の処置や緊急手術時の安全性に大きく影響するので、お薬手帳の意義は高いと言われていましたが、そもそもかかりつけ医しか受診していない方、緊急時に影響するような薬を飲んでいない方にはそこまで有用ではないことと、お薬手帳を利用すると薬代が少し高くなることがネックで薬剤師から強く勧めにくく、そこまで利用率は高くありませんでした。

それが今日ではお薬手帳を提示すると少しだけ薬代が安くなります。この改正のきっかけになったのが東日本大震災です。各地の避難所で診察している医師からお薬手帳を持っていた患者さんは、薬の情報から既往歴や治療中の疾患が予想できるので非常に助かったという声が多く出ました。これは今まであまり認識されていなかった利用法で、この場合であればどんな薬を飲んでいても、薬の情報が分かることに価値があります。防災の観点から国民全体の利益になると判断した国は、本腰を上げてお薬手帳を普及させるため、利用者に金銭的なインセンティブを与え、大規模災害の時にはお薬手帳を見せれば処方箋無しでも薬局から薬をもらえる特例を認めました。薬剤師としてもお薬手帳で薬代が安くなるという武器を持たせてもらったことで自信を持って勧められるようになり、一気に利用率は上がりました。
ここまで来てようやく題名にある「紙のお薬手帳」の説明です。国が本腰を上げるきっかけになったのは防災時の利用ですから、電気や通信のインフラもダメになっている可能性が高いです。今は電子お薬手帳、マイナ保険証でもお薬手帳の代わりになるのですが、電気や通信がダメだと使えません。また、電子お薬手帳は携帯のロックが解除できないと他人は見られません。マイナ保険証は救急車では使えませんし、手術室にマイナ保険証の読み取り機はありません。このように電子機器は便利なのですが問題点もあり、いざという時に確実に役に立つのは「紙のお薬手帳」だと考えています。