今年は11月に入っても暖かく、気候のおかしさが際立つ年でしたが、12月に入って少しは冬らしくなってきたでしょうか。気候もそうですが、今年は感染症も例年と違った様相でした。そう、マイコプラズマ肺炎の流行です。
マイコプラズマ肺炎とは?
マイコプラズマ肺炎というと、あまり聞き馴染みのない方もいるかと思いますが、実は結構昔からある感染症で、かつてはオリンピックのある年に流行することが多かったことから、オリンピック熱とも呼ばれていました。近年、流行することは少なくなっていましたが、今年(奇しくもオリンピックイヤー)は久しぶりに流行しています。
マイコプラズマ肺炎は肺炎マイコプラズマという細菌による感染症で、特徴を大まかにまとめると、
・感染経路は飛沫または接触感染
・感染力はインフルエンザ程高くはないが、閉鎖空間(家、教室など)では注意が必要
・潜伏期間は1~4週間(平均2~3週間)
・症状は発熱、倦怠感、長引く痰の少ない咳(空咳)など
が挙げられます。ただし、アデノウイルスなどが原因の普通の風邪と区別がつきにくいため、マイコプラズマ肺炎と気付かずに治ってしまう方も多いようです。ただし、上述のように咳は長引くことが多く、解熱後も長い場合は1ヶ月程度続くこともあります。乾いた咳(空咳)が多いですが、痰の絡んだ湿った咳に移行する場合もあるようです。患者は小児に多く、大抵の場合は軽症で済みますが、まれに重症化することもあります。
マイコプラズマの性質
マイコプラズマ肺炎の原因細菌となる肺炎マイコプラズマ(以下マイコプラズマ)は通常の細菌とは異なった特徴を持っています。
まず、通常の細菌は細胞の外を覆う膜(細胞膜)の外側に殻(細胞壁)を持っていますが、マイコプラズマは細胞壁を持っていません。また、いくつかの代謝系も欠損しているため、自力で栄養を使って増殖することが得意ではなく、多くの細菌より小さなサイズになっています。マイコプラズマが十分に増殖するためには他の細胞の表面ないしは内部に寄生し、宿主の代謝系を利用して栄養を摂取しなければならず、細菌でありながらウイルスのような特徴を有しています。
細胞壁を持たないためにその細胞は柔軟性に富み、大きな細菌などが侵入できない細胞間隙にも入り込むことがあります。また、多くの細菌に対して使われるセフェム系(β-ラクタム系=細胞壁合成阻害薬)の抗生物質が効かないため、主にマクロライド系やテトラサイクリン系の抗生物質が用いられます。一部の薬剤耐性菌にはニューキノロン系抗生物質を使う場合もあります。また、マイコプラズマは細胞壁がない分防御力が低くなっており、アルコールや界面活性剤(石鹸、洗剤)で失活します。
マイコプラズマ肺炎の予防・治療
マイコプラズマ肺炎にかかっても重症化することは少ないとは言え、高熱が出たり咳が長引いたりすると辛いため、予防はとても大切です。その中でも特に大切なのがやはり手洗い・うがいです。肺炎マイコプラズマは他の細菌と比べてアルコールや界面活性剤に弱いため、水洗いだけでなく、マウスウォッシュや石鹸も併用することをお勧めします。
あまり痰の絡まない咳が続く、急に高熱が出るような場合はマイコプラズマ肺炎が疑われます。ただし、前述の通り普通の風邪と区別がつきにくいため、怪しいな、と思ったら病院を受診して検査してもらいましょう。マイコプラズマ肺炎とわかったら、抗生物質による除菌+咳や熱の対症療法が開始される場合が多いです。ただ、風邪全般に言えることですが、最も重要な治療は自分の免疫力を高めることなので、もしマイコプラズマ肺炎にかかってしまったら感染拡大させないためにも、しっかり休んで治療に専念しましょう。