4月に入り、本格的な春を迎えました。暖かくなってきたこともあり、お出かけをされる方も多いのではないでしょうか。特に、今が旬のお花見を楽しまれる方も多いと思います。花粉症の方々は少し辛い部分もありますが、満開の桜を眺めたくなるのは日本人の性なのでしょう。さて、今月の薬局通信は4月ということで、「桜」についてお伝えします。
桜の品種
桜の野生種は世界に100種類ほど、日本には11種類存在しています。ただし、私たちがよく目にする多くの桜は品種改良によって生まれたものなので、そのような品種は野生種には含みません。桜の品種改良は東アジアを中心に観賞用、ヨーロッパを中心に食用(サクランボ)のために盛んに行われてきました。これにより数多くの栽培品種が生まれましたが、日本では特に多くの品種改良を行っており、記録に残っているだけでも800種類以上の品種が存在しているようです。この数は他の国と比べて圧倒的に多く、日本人の桜に対する並々ならぬこだわりを感じます。
ここで観賞用の品種として最もポピュラーであるソメイヨシノ(染井吉野)について少しご紹介します。ソメイヨシノは幕末頃に江戸の染井村で生み出された品種で、桜の名所である奈良県の吉野山にちなんで名付けられました。遺伝的には野生種であるエドヒガンを母に、同じく野生種のオオシマザクラとヤマザクラの雑種を父に持つとわかっています。品種としての特徴は、エドヒガン由来の葉が生える前に満開を迎える性質と、オオシマザクラ由来の大きく整った花の形を併せ持っています。この美しさから現在では日本中に植樹されており、海外に輸出されることもあります。また、世界中のソメイヨシノは全て同じ遺伝子を持ったクローンであり、接ぎ木によって増やされています。これにより、同じ場所に生えているソメイヨシノはほぼ同時に開花することになり、美しい景観を作りやすいのです。
桜の利用
日本では、桜を観賞用やサクランボの食用以外にも多くの場面で桜を利用しています。花は塩漬けにすることで食用になり、葉も桜餅に巻かれていたり、木のチップは燻製の香りづけに使われたりしています。そして、桜の木の皮(オウヒ)は日本独自の生薬として今でも使われています。効果としては、咳嗽、皮膚炎、腸炎に効くとされています。皮膚科領域で使われる漢方薬である十味敗毒湯の構成生薬の1つとしても知られています。ただし、メーカーによってはオウヒの代わりにボクソク(クヌギやコナラの樹皮)を使っている場合もありますが、効果はほぼ変わらないそうです。また、サリパラ液という液剤の主成分はオウヒの抽出液であり、こちらは鎮咳・去痰薬として利用されています。
このように、日本人にとって馴染み深い桜はお花見だけではなく、私たちの生活や健康にも様々な形で関わっているのです。
今年のお花見は少しいつもと違った新鮮な目線で楽しめるのではないでしょうか。